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【図書館勤労生おすすめの本】『人情ばなし 』

2025年09月29日   学生スタッフおすすめの本

「三蔵さん・・・ヤクザ渡世の因果な掟、一宿一飯の恩義から恨みもつらみも無えおめえさんを刃にかけた時次郎は、ヤクザにほとほと愛想が尽きやした。
おめえさんが身重のかみさんと幼い坊やを残して、あの世へは未練が残って行けなかろう。
逆さまごとじゃござんすが、及ばずながら二人りゃあ、命に代えてもこの沓掛が引き受けた。
三蔵さん、安心して成仏しておくんなさい・・・」
(坂本冬美「沓掛時次郎」)

こんにちは!勤労奨学生の小河原です。

実は私、昔から人情モノに弱いんです。近ごろは特に任侠映画や浪花節にハマっておりまして、暇さえあれば鑑賞しているような有様です。
特に鶴田浩二と夏八木勲が演じる『修羅の群れ』の横山新二郎は絶品で、そのカッコよさに毎回のように痺れています。

鶴田は歌手としても活躍しており、『傷だらけの人生』や『男』といったセリフ入りの曲で人気を博しました。
今では考えられませんが、かつては『岸壁の母』や『月の法善寺横町』など、多くのセリフ入り歌謡がヒットしたものです。
さらには『刃傷松の廊下』で知られる真山一郎や、『河内十人斬り』の京山幸枝若など、浪曲畑の人間もヒットチャートに顔をみせていました。
(合間合間に挿入されるセリフが場を盛り上げてくれるので、カラオケで歌うと喜ばれやすかったり・・・)

というわけで、イントロすら邪魔に思うという令和の若者には受けないかもしれませんが、浪曲の題材としてよく用いられる名作戯曲『沓掛時次郎』をご紹介したいと思います。

 

かつての博徒は何らかの事情で旅人になった場合、その土地土地の親分の家で仁義を切ると一宿一飯の世話を受けることができました。
その代わり、争いごとが起きると助っ人として参戦せねばならず、決して楽な旅とは言えません。
この作品の主人公・時次郎もその一人で、彼の場合は中ノ川一家の跡目候補だった三蔵という男を討ってほしいと依頼されます。

正々堂々と勝負を挑み、見事三蔵を討ち果たした時次郎でしたが、ともに来ていたものたちは三蔵の妻・きぬ、子・太郎吉をも手にかけようとします。
これに怒った彼は二人を庇ってその場から逃亡し、長い長い流浪の旅に出る、というのが導入になっています。

 

この作品の魅力は何と言っても時次郎の男っぷりに尽きるでしょう。
一人旅でも楽ではないのに、身重の女性と幼い子どもを連れて、まして二人は縁もゆかりもないどころか元は敵同然だった存在です。
その親子を甲斐甲斐しく助ける時次郎の姿に、作中でも多くの人々が胸を打たれています。
しかし、その男っぷりが故の悲劇もまた印象的なのがニクいところです。

 

時代錯誤と言われるかもしれませんが、「男が惚れる男」の格好よさが満載の名作です。
青空文庫でも読むことができるので、ぜひ一度ご覧ください。

 

『人情ばなし 』
出版社:筑摩書房
著者:鶴見俊輔
出版年:1994年
配架場所:日野図書館   自動化書庫
請求記号:908||SH61

勤労奨学生 小河原(人文学部日本文化学科4年)

図書館の学生スタッフ(勤労奨学生)が定期的におすすめ本の紹介をしています。
(書影の掲載には紀伊国屋書店様のご協力を得ています。)

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