【図書館勤労生おすすめ本】『山月記』
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『詩人が虎に身を堕とすやつ』
正式名称がわからない小説も 好き好き大好き~
こんにちは!好きな小説発表ドラゴン(勤労奨学生)の小河原です!
正式名称がわからない(わかりにくい)小説ってありますよね。
有名どころで言えば『自分以外の全員が犠牲になった難破で岸辺に投げ出され、アメリカの浜辺、オルーノクという大河の河口近くの無人島で28年もたった一人で暮らし、最後には奇跡的に海賊船に助けられたヨーク出身の船乗りロビンソン・クルーソーの生涯と不思議で驚きに満ちた冒険についての記述』でしょうか。
流石に長すぎたのかすぐに改題されてしまったようですが・・・
ということで、今回は『詩人が虎に身を堕とすやつ』こと『山月記』をご紹介したいと思います。
中島敦『山月記』
作者の中島敦は祖父の代から続く漢学者の家に生まれたため、中国文学に明るい人物でした。
実際、彼の代表作である『李陵』と『名人伝』、そして今回取り上げる『山月記』はともに中国古典を題材にした作品として知られています。
当時の文壇では「芥川龍之介の再来」と呼ばれるほど将来を嘱望された人物でしたが、1942年に34歳の若さでこの世を去りました。
さて、この作品は発狂して虎と化してしまった男・李徴が主人公を務めています。
彼の友・袁傪による「その声は、我が友、李徴子ではないか?」というセリフは有名ですね。
この李徴、若くして科挙に合格して江南尉に任じられるというエリート街道まっしぐらな秀才だったのですが、生来のプライドの高さから賤吏(といっても将来の栄達が約束された所謂キャリア組)に甘んじることをよしとせず、職を辞して故郷で詩作に耽る毎日を送ります。
しかしそう簡単に詩で名をあげることは能わず、生活はどんどん苦しくなる一方。遂に彼は妻子のために再び官吏の職に就きますが、かつて自身より能力が劣っていると断じていた者たちから命令されることに耐えられず、仕事で赴いた汝水のほとりで発狂してしまいます。夜中に飛び起きて訳の分からない叫びをあげながら山野へと駆け出してしまったのです。
その後、前述の袁傪が勅命を帯びて商於の地に至った時、物語は急展開を迎えるのです・・・
話の内容そのものも勿論素晴らしいのですが、格調の高い非常に美しい文章がこの作品を名作たらしめています。
李徴が即席の詩を吟じた直後の
「時に、残月、光冷やかに、白露は地に滋く、樹間を渡る冷風は既に暁の近きを告げていた。人々は最早、事の奇異を忘れ、粛然として、この詩人の薄倖を嘆じた。」
という一節はその最たるものでしょう。
また、作品の大部分を占める李徴の告白に見られる強弱の巧妙さにも感嘆を禁じえません。「芥川の再来」と呼ばれたのも頷けます。
最終盤、「最早、別れを告げねばならぬ。 酔わねばならない時が近づいたから、と、李徴の声が言った。 」という一節があります。
虎の心に支配されることを「酔う」と表現しているのです。
ことわざに「酒に酔って恐いもの知らずになること」を指す「虎になる」というものがあります。しかし、彼はむしろ自分の人としての心が失われてゆくことをひどく恐れていました。
この先、酔い続けたまま一生を終えることができたらまだ救いがありそうなものですが、もし命尽きるその直前に再び人間の心を取り戻すしてしまったら・・・
極限状態におかれた人間の内面がまざまざと浮かぶこの作品、ご一読いただければ幸いです。
好きな小説がまた出てきたその時は
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本の詳細情報
『山月記・名人伝ほか』
出版社:筑摩書房
著者:中島敦
出版年:2016年
配架場所:日野図書館 自動化書庫
請求記号:CB||N
勤労奨学生 小河原(人文学部日本文化学科3年)
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